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工芸とテクノロジー時代のあわいで

2016年10月10日 

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宇宙望遠鏡、コンピュータ制御の切削機械、片手で持てるほどコンパクト化されたパーソナルコンピュータ、モバイルフォン、自動操縦機能付き自動車などなど、世界はかなりのところまでインターネットがゆきわり、工業技術などテクノロジーは進化し、人間の生では到底到達できない宇宙の遠いところまで見渡すことができるようになった。けれども僕らの生活はそれと比例してそれが意味するほどにはどれだけ真に豊かになったのかは分からない。
かたや人間の手がつくり出すものの割合は工業製品に比べ減少したとはいえ、今も暮らしの中に日用品として根付いている。

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銀座にある資生堂ギャラリーで10月25日まで開催中の「そばにいる工芸」は、そんな生活に身近にある暮らしの道具としての工芸を紹介する展覧会だ。

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陶芸家吉村和美さんの器、紙すき師のハタノワタルさんの小箱、金工の鎌田菜穂さんの生活道具、木工作家の川端健夫さんのテーブルウェア、焼物の飛松陶器のランプシェード、ピーター・アイビーさんのガラス作品などが展示されている。展覧会企画協力は森岡書店の森岡督行さん、設計事務所五割一分が会場構成を手がけている。

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鎌田菜穂さん作品は、金属という素材がもつ強さを感じさせながら、手仕事でしか生み出しえないようなフォルムの穏やかさとディテールの細やかさが共存していて、見る人の心をゆさぶる魅力をもっている。

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アイビーさんのガラスの吊り照明と、その奥に見えるのは飛松陶器の陶磁器製のランプシェード。照度をおさえぎみの会場全体の空間をガラス、磁器という光を透過する異なる素材感で美しく彩っていた。

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会場内奥のスペースでループ上映される出展作家の制作風景をうつし出す映像作品も見逃せない。

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富山の工房でガラス作品を制作するアイビーさんの作品は、普段なかなか見る機会がないので、ひときわ注目されていた。素朴だが端正でエレガントな形状は、ガラス本来がもつ儚さやあやうさをはらみ、工芸というものがもつ美術性をも体現していたように思う。

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工芸はまた、単に生活の道具というだけではない、機能とは別のところで人びとの感性をゆさぶる美としての側面をもっている。それは日々鍛錬される作り手のわざ、生活をより豊かにという人びとの思いから育まれてきたものには違いはないが、工芸がもたらす多様な美のあり方はまた、テクノロジーと同様に、人間が向き合うものとしてよりよい未来への可能性さえもはらんでいるものともいえるだろう。

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今も工芸がいきいきと息づいていることは言うに及ばす、人がつくり出すものは、テクノロジーや科学が進化したことにより大幅に変わるのだろうか?以前、新聞の一面広告に「この100年を、次の100年へ」とキャッチコピーのつけられたIBMの広告が掲載されていたのをみたときの衝撃は今も忘れることができない。
IBM社は今年で創立105年の世界的なコンピューター・カンパニー。’80年代もなかば、世間が好景気に湧き、まだAppleがメジャーではないころ、僕らの未来はIBMのコンピューター・テクノロジーとともにあった。’60年代のアポロ11号の月面着陸に先立ち、人類の宇宙探査にむけた研究をはじめ、その実現の際には、システム開発を手がけたIBM。
科学と共同し、生活のサービス向上をはかり、経済発展に寄与し、「THINK=考える」をスローガンにかかげ、未来のよりよい暮らしについて思考した。僕たちの日常のちょっとした情報や、都市のインフラ、健康状態まで、それらはコンピューターの発達によって、効率的かつ、機能的に管理され、暮らしは日進月歩、便利になっていくものだと考えられていた。情報はコンピュータの端末により、一極集中に極めて合理的に管理され、それによって、ミスやトラブルは未然に防ぐことができる。テクノロジーとともに、そんな未来が来ることを誰もが疑うことがなかった、人類の「ゴールデンエイジ」とともにIBMは確かに、あのころ、あったのだ。

そして、「クレイジーな人たちへ」。1997年、アップルコンピューターはそんなマニフェストをかかげ、均質化、画一化、硬直化した世の中の価値観を、デザインもコンセプトも、さらに精鋭化させたパーソナル・コンピューターによって、「クレイジー」な人びとの、個人的な思考でもって、柔軟に解きほぐしていった。

アルバート・アインシュタイン、パブロ・ピカソ、ボブ・ディラン、ジョン・レノン、バックミンスター・フラー、マーティン・ルーサー・キング。
ある意味、異端で、発明家で、天才で、しなやかでクレイジーな人々。彼らを大胆に起用した広告戦略は、アップルを単に消費の対象としてのコンピューターを販売する企業でなく、背景をもって未来の暮らしを提案する企業であることを印象づけた。本当の意味でのクレイジーな人びとが、この世界を変えるというメッセージとともに。

この言葉に僕はどれだけ勇気づけられたことだろう。
いまこそ、その意味を、考えてみたい。

この本を手にしたのは発売されてすぐだから、20年近くが経つ。本の表紙も背表紙も色あせているけど、このなかにおさめられたジャック・ケルアックの短い詩は、色あせることなく、今なおますます輝き続けている。THINKからThink different.へ。自発的にこの世のなかを変えていくという姿勢がここにはある。

工芸が時代とともに生活の道具からアートの領域まで横断しながら、人びとの思いとともに手から手へと継承されてきたように、人間中心のテクノロジーのあり方の遺伝子は、IBMからAppleへ、そしてその先の未来へと脈々と受け継がれてきた。これから僕らは全体としてどこに進むのだろうか。その答えの一つが工芸とテクノロジーのあわいにあるような気がしてならない。

「そばにいる工芸」 資生堂ギャラリー
会期:開催中〜2016年10月25日

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Authors

加藤 孝司加藤 孝司
水島 七恵水島 七恵
野本 哲平野本 哲平