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或る女性写真家と、写真の最初期の歴史について

2016年07月10日 

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19世紀に活躍したイギリスの女性写真家、ジュリア・マーガレット・キャメロンの日本での初の回顧展が東京丸の内にある三菱一号館で開催中だ。
昨年はジュリア・マーガレット・キャメロンの生誕200年、キャメロンの博物館での初の個展から150年の記念の年でもあった。

キャメロンは48歳の年である1863年に写真機を初めて手にした、今でいえば遅咲きの芸術家。そして2年後の1865年にはロンドンのサウス・ケンジントン博物館(現ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)で初の個展を実現するという、天才肌の写真家であった。

写真の歴史は、最初の写真が撮影されたとされる1826年に始まる。それはフランス人発明家、ジョゼフ・ニエプスが自宅の窓から撮影した裏庭の写真である。カメラ・オブスクラという装置を使って撮影された写真には、窓から続く屋根と空であろう余白が写っている。そのぼんやりとした写真の撮影には、現在では考えられないが8時間もの露光を必要したといわれ、まだまだ実用的なものではなかった。

あるいは、一般的には最初の写真は「ダゲレオタイプ」という名前で記憶をしている人の方が多いかもしれない。それはニエプスが自宅の窓から見える景色を撮影した13年後の1839年のこと。ニエプスの協力者でもあり画家で化学にも精通していた同じくフランスのルイ・ジャック・マンデ・ダゲールが銅板にヨウ化銀をのせた銀版写真、ダゲレオタイプとして今に知られる写真である。この方法で撮影された写真はニエプスの写真と比べてもより鮮明なものであったが、現在の写真では複製できることが当たり前だが、これは1枚限りの写真であった。これに似た方式は今もポラロイド写真として親しまれている写真でもある。ちなみにダゲレオタイプでは露光時間が10〜20分に短縮され、のちに明るいレンズと感光材料の発達によりさらに1〜2分にまでになり、ニエプスの写真では到底不可能であった人を被写体とした肖像写真の撮影が可能となった。またダゲレオタイプののち数年には、ウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボットによるカロタイプという複製可能なネガポジ方式による写真技法も生まれた。タルボットは最初の写真集といわれる「自然の鉛筆」を1844年に発行した人物。だが、1888年にアメリカでコダックカメラが開発され、写真が大衆化するまで、写真は撮影するにも現像するにも時間を要するものであり、大きな機材や有害な化学薬品を必要とするものであった。

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キャメロンが写真家として活動したのは、新しく生まれた写真技法が確立されつつあった1865年以降、その生涯の晩年の12年ほどであった。その写真は著名人と交流のあった上流階級の女性であるキャメロンらしく、チャールズ・ダーウィンやロバート・ブラウニングなどヴィクトリア朝時代の有名人の肖像写真から、親族をモデルに宗教画や寓話をモチーフとした創作写真があった。

日本で初の開催となる今回の大規模回顧展では、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館収蔵のキャメロンの作品が多数展示されている。作品のジャンルも肖像写真から絵画写真といわれるものまで、キャメロンのほぼすべてのキャリアを網羅したもので見応えがある。

その作品は現在みても何かしらの感情をそれを見るものにもたらす新しさをもっている。当時、記録媒体としての写真が中心であった時代において芸術性をさらに高めたキャメロンの写真は、僕にとって150年以上の時を越えて、こちらを見つめるモデルの肖像写真などにおいて、当時写真において重要とされていた絵画と写真の関係性、そして新しさ、美しさ以上の何かを語りかけてくる。
またほぼすべての写真に共通しているのだが、その写真は斜が掛かったようにどこかぼんやりとしていて、ソフトフォーカス気味な写真に特徴がある。キャメロンはその曖昧さを意図して作品づくりをしていたが、それは当時の写真界からも賛否両論の騒動も起こしている。さらにそれらの作品には、制作過程で生じた傷やひび、シワが表れている。ピントのあった明瞭でクリアなものが”よい写真”であるといわれる写真作品において、それは時にマイナス材料だらけのものだったかもしれない。だが、それは当時も今も、多くの人を魅了したのも事実であり、それがキャメロン独自の芸術性の表現でもあり詩学でもあった。それとモノクロームといえども単なる白と黒の色ではなく、淡い茶色味がかった色調は、どこか文学的な色であるとも言えなくもない。

また会場ではキャメロンの同時代人と題して、同時代に撮影された写真を見ることができるコーナーもあり注目だ。機材も撮影技術も発展途上にあったこの時期に撮影されたものとして、風景写真の歴史において重要な作家であるギュスターヴ・ル・グレイの「地中海」はぜひご覧になっていただきたい。

そんな写真史に燦然と刻まれるジュリア・マーガレット・キャメロンの貴重なヴィンテージプリント100点以上をみることが出来るこの機会をお見逃しなく。

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Authors

加藤 孝司加藤 孝司
水島 七恵水島 七恵
野本 哲平野本 哲平