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Diary

一瞬を生き、一生を記録する

2016年05月25日 

まるで呼吸をするかのように、写真を撮るという行為が日常化したこの時代。
携帯カメラが台頭し、instagram、facebook、twitterなどを始めとするSNSの浸透によって、
誰もが気軽に写真を撮って、発表し、そこから生まれるコミュニケーションがある。
このSNS時代の写真表現もまた、100年後には歴史となって、世界中の美術館などで
未来を生きる人たちに鑑賞される日がきっと来るのだろう。

 

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ジャック=アンリ・ラルティーグの個展、

「幸せの瞬間をつかまえて」を観るために埼玉県立近代美術館へ訪れた。

1894年、フランス・パリ郊外のとても裕福な家庭に生まれたランティーグは、
アマチュアカメラマンだ。
7歳のとき、写真好きの父親にカメラを買い与えられたことをきっかけに写真撮影に熱中し、
生涯、自分のためだけに、自分の愛する家族や物たちとの時間を記録し続けてきた。
若きランティーグが生きた19世紀末から第1次世界大戦勃発までの期間、
パリはベル・エポックと呼ばれる時代を歩んでいた。
ベル・エポックは。1900年のパリ万博を一つの頂点としながら、
あらゆる分野で新しいものが誕生し、現代生活のベースが築かれた転換期だ。

 

その時代をど真ん中で生きた彼の撮った写真は、大衆文化に花開いたパリの躍動が
鮮明に映し出している。ごく私的な目線ながら、結果的にその貴重なベル・エポック期が
映し出されていたことも、ラルティーグの写真の評価に繋がっていることは間違いない。
そんなランティーグの写真が脚光を浴びたのは、彼が69歳のとき。
初の回顧展がニューヨーク近代美術館で開催され、以来、その名は世界中に知れ渡ることになる。
(日本では1986年、銀座プランタンで初の個展が行われている。)

 

生涯アマチュア精神を貫いたランティーグ。
アマチュアといえば、もう一人の写真家、植田正治を思い出す。
故郷・鳥取を拠点に作品を発表し続けた植田正治もまた、
家族をモデルにしながら純粋に写真を楽しんだアマチュアカメラマンだ。
両者は生きた時代も文化も土地も違う。
けれど写真を通して見つめた世界には、どこか共有するものがあるように思う。
それは、幸せであることを常に恐れず「幸せであった」二人だからこそかもしれない。
この幸せな瞬間はすぐに過ぎ去ってしまうという、切実さ、覚悟のようなもの。

 

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(「ジャック=アンリ・ラルティーグ 幸せの瞬間をつかまえて」 図録より フロレット 1956年)

ランティーグの個展ではカラー写真も多数展示されていた。
愛する人々との幸せな時間。一瞬で過ぎ去ってしまうその刹那を「せめてなら」と、
写真という記録に留めておこうとしたのか。
シャッターを切る瞬間は、どんな気持ちを込めていたのだろう。それは祈りのようだったのか。
ただただ美しいと思っていたのか。

何れにしても、深い情熱を持って、彼は一瞬を生き、一生を写真で記録した。

私はその記録を眺めながら、ラルティーグから少しだけ、
生きることに、勇気をもらったような気がした。

時は止まず前に進んでいくしかないから。

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Authors

加藤 孝司加藤 孝司
水島 七恵水島 七恵
野本 哲平野本 哲平