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あの時のイタリアデザイン

2016年05月20日 

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ここにテーブルのような、背の低いスツールのようなオブジェがある。
これは、イタリアデザイン界の巨匠にして神とも言える存在であるエットーレ・ソットサスが1965年にポルトロノヴァ社から発表した作品である。
ウォールナットの二つの円盤が一本の支柱で支えられた構造は、どこか古代の神秘的なオブジェ、ヴァナキュラーで、プリミティブなトーテムポールのようにも見える。と思えば、木材のオーセンティックな存在感と合成素材の鮮やかなオレンジ色との組み合わせは、どこかポップアートの感性も感じさせる。

ポルトロノヴァは1957年にセルジオ・カミーリィによって設立されたイタリアの工房。1958年にはエットーレ・ソットサスがアート・ディレクターに就任。時を同じくしてソットサスはオリヴェッティのデザイン・ディレクターも兼任するようになる。ソットサスはオリヴェッティ社であの有名な赤いプラスチックのタイプライター「ヴァレンタイン」をデザインする。ソットサスはポルトロノヴァ創設の初期の頃から既に陶器から家具まで幅広くデザインを手掛けている。
このスツールは同時期に手がけられたシンボリックで、鮮やかな色彩と力強いかたちをもったセラミックのオブジェにも通じるデザインである。

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エットーレ・ソットサスについてはこの本に詳しい。

なかでも1969年から1970年にかけれ制作された有名な陶器作品シリーズ「タントラ」と「ヤントラ」は、1956年に陶器の製作を始めたソットサスが、60年代初頭のインドへの旅で得た刺激的な、アジアへの憧憬が影響として色濃く刻印された、ギャラリーのみでわずかに制作された作品である。「暗闇に於ける陶器」とソットサスによって暗示と啓示を込められた作品群と共に、神秘主義に触れたボヘミアン・ソットサスの生き方の、陰と陽、暗黒という深淵を表現しているものともいえる。そもそもヤントラとはマントラ(呪文の一種)を効果的に唱える為の簡易的な道具の事であり、それは人間が生きていく上で願い、切実にあみ出された、より良く生きるためえの創造的な道具そのものだった。

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1972年にニューヨークのMOMAで行われたイタリアデザインの大展覧会「Italy : The New Domestic Landscape」展の図録より、ポルトロノヴァのページ。

1960年代はアーキズームやスーパースタジオなど若いラディカルな思想を持った作家達の重要な作品を矢継ぎばやに発表し、アメリカや北欧デザインに影響を受けつつも、新しいイタリア・デザインの歴史を築いていった時代。
実際に芸術家たちとも接触し、当時既にフランスに帰化していた、ダダ・シュールレアリスムの画家、マックス・エルンストとも作品作りをしている。

時はアメリカのレバノン侵攻、パナマ侵攻を経て泥沼のベトナム戦争へ突入する真っ只中であった。イタリア国内も、新しいかたちの前衛政治組織としての共産党の時代であり、68年の革命を頂点に、潜在的には70年代半ばまで人々のユートピア思想と共にそれは芸術家の中に存続する事になる。
ヨーロッパの60年代は芸術家と若者が等しく政治に結び付いた激動の時代だ。それは文化的でいる為には政治的である他無く、芸術とは革命と同義語であった。それは新左翼としてのマルクス主義であったり、毛思想であったり、時代と寄り添うことがイコール思想に反映され、政治がそこにあるユートピアを映す鏡となった。イタリア国内に於いて政治的には社会党が躍進し、中道左派の政権が誕生した。

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雑誌「デザインアディクト」(2007年)。執筆で参加したイタリアデザインを特集したページの柳本浩市さんのコレクションより。

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1974年の「SD」アーキズーム特集号より。現在のイタリアデザインの巨匠、若きアンドレア・ブランジが在籍したアーキズームもポルトロノヴァから作品を発表していた。

しかし、若者たちの政治活動や芸術家達の芸術活動は『サブカルチャー』と呼ばれ、そのほとんどはカウンターカルチャーとして共産党からは皮肉にもブルジョワ的なものとして黙殺された。環境やエネルギー問題が表出しだしたのもこの頃だった。
やがてイタリアデザインはラディカルの時代に突入し、消費社会に異議申し立てをするデザイナーたちはモノをデザインすることを休止する。モダニズムが完全にはなしえなかった古いものと新しい価値観の融合、そして既成概念の解体をよりしなやかにかつ強固に推し進めていく。

ポルトロノヴァは、ソットサスのウルトラフラゴーラを含む60年代から70年代にかけての実験的かつ重要な作品や、ロマツイ/ダルヴィーノ/デ・パスのジョー・ソファ、近年ではマンジャロッティ、ロン・アラッド、ナイジェル・コーツらの作品を発表。60年代イタリアの切実な生活向上の要請に企業として応えた典型的なかたちとして、デザイン史においてその功績は少なくなく、昨今のポストモダンデザイン熱再燃により再び脚光を浴びつつある。

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Authors

加藤 孝司加藤 孝司
水島 七恵水島 七恵
野本 哲平野本 哲平