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雑貨という日常をめぐるさまざまな視点

2016年04月05日 

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「毎日起きては繰り返すもの、平凡なこと、日常的なこと、明らかなこと、ありふれたこと、月並みなこと、並以下のこと、あたりのざわめき、慣れきったこと、それらをどう説明すればいいのだろう。どう問いかけ、どう記述すればいいのだろう。」(ジョルジュ・ペレック 「何に着目すべきか?」より)

ビン、やかん、ボールペンや万年筆などの文房具、ファンシーなシャボン玉遊びの道具、スプーンやオタマ、鬼おろしなどのキッチンツール、かごやホウキなど江戸時代以降庶民の道具として親しまれてきた荒物などなど。暮らしの中で根付いてきたそれら日用品は、時代時代のライフスタイルの変化にともない、かたちや目的を変え多様化してきた。個人の生き方やスタイルを反映させるものでもあるそれらは、とりあえず雑貨と呼ばれることも多く、その「雑」の文字の通り、特定のカテゴリーに定義づけすることのできないモノとして、ある種の夢や憧れを喚起し豊かさを持ちながら生活を彩ってきた。人はなぜそれらに惹かれるのか。

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大量に生産され、多くの人目に触れ、日常になくてはならない暮らしを彩る日用品、それらの総称が雑貨だろう。
毎回ユニークなテーマでデザインにまつわるエキシビションを行う21_21 DESIGN SIGHTで開催中の「雑貨展」はそんな雑貨と、それをめぐる生活史を新鮮な視点で切り取ったエキシビションだ。

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会場には所狭しと雑貨が展示されている。それらを前に、これが雑貨、あれも雑貨、これは持っている、こんなものがあったらいいなあとか普段の暮らしに思いを馳せるのも楽しい。

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可愛らしさを感じるある種のファンシーさを持ったものや、工業生産品、民衆的手工業から生まれたクラフト、ライフスタイルの多様化に即してブランドや価格ではなく趣味嗜好に合わせて幅広くラインナップされた、個人の生き方やスタイルを反映させるデザインとしての雑貨。
ある明確なカテゴリーに定義づけし一概に「これ」とひとくくりにすることのできない、多様性と豊かさを持つものが雑貨であるともいえる。

本展には15組以上の作家と10組以上の出展者が参加。生活の隅々にまで浸透し現代人の日常に欠かすことのできない雑貨をそれぞれのスタンスから提示してみせる。
展示方法にも工夫がある。あらためて自分の身の回りにある暮らしを彩る雑貨という名の愛おしいものと向き合う良い機会になるだろう。

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展示会場に入ると、いきなり目に飛び込んでくるのは、籠やホウキ、ハタキなどがひとかたまりになった不思議な屋台。日本橋馬喰町の荒物問屋「松野屋」とデザイナー寺山紀彦氏による、荒物行商のインスタレーションだ。
つい30〜40年ほど前まで、ここ東京でもこれに似た屋台を目にすることがあった。僕が記憶しているのは、金魚や風鈴などを行商して歩く屋台だった。今はおしゃれなライフスタイルショップの店先を飾る荒物も、もとはといえば当たり前な暮らしの普通の道具であった。雑貨というものはまさにそのような日用品であることが分かる展示である。

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古今東西の日用品や、街中でリサーチした雑貨と呼ばれてひとくくりにジャンル化される「雑なる物」の有り様。それらに人はなぜ惹かれるのか?江戸時代の路上、ヨーロッパのアンティークマーケット、そして現代のコンビニの店先で。

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スタイリストの岡尾美代子さんの展示は、普段スタイリングの仕事で使うために収集された「雑貨」を、ひとつずつ袋に梱包し白い棚に収めたコンセプチュアルな展示。それぞれの雑貨には中身の写真が添付された黄色いタグがついている。物を選ぶこと、そして分類すること、それらがひとつの形になり提示されることで、意味やストーリーがあるものたちが、「匿名性」を持って立ち現れてくる。
ものを選ぶことに長けたスタイリストという存在のものへの向き合い方が興味深い。

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人気ブランド「YAECA」の井出恭子さんの展示。整然と並べられたミニマルな美しさをもったプロダクトを見ているだけで、暮らしのアイデアやヒントのようなものが目の前に浮かび上がってくるから不思議だ。
そして展示品でありながら、ついつい手に取ってみたくなる佇まい。よい日用品の証だろう。

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だが、雑貨とは本当はどんなものなのだろうか?考えれば考えるほど、そんな疑問は疑問のまま、頭の中を行ったり来たりする。
たとえば、体温計や石ころのような雑貨と呼ばれないものをテーブルの上に並べることで、優れたデザイン、あるいは愛着をもったものであれば、それはただちに「雑貨」という名で呼ばれうるものになるのではないだろうか。
愛着がなければ、ものは雑貨にもなれないのではないだろうか?逆をいえば、愛着さえあれば、所有者以外がみればたとえゴミのようなものであっても雑貨になりうる。
そんな極めて個人的で、曖昧な概念をもったものも雑貨のありようの特徴なのかもしれない。

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マークスインターナショナルのダイアリーでもおなじもの、デザイナーの野本哲平くんもこの雑貨展に「雑種採集」を展示しているから注目していただきたい。
彼は都内を中心に、道ばたからキッチンまで、さまざまな場所、人や物を取材。路上観察や考現学を想起させる、その鮮やかなまなざしで、日常にあふれた取るに足らないありふれたものや、見慣れたものの中から、暮らしの中にある「雑貨」的なものを拾い集め、提示してみせた。
それらは、酒屋の店先に打ち捨てられた一升瓶ケースに手製のカバーをかけた椅子であったり、微妙にサイズの異なる二つのティッシュボックスをたくみに組み合わせてつくった抽き出し、殺虫剤をはめたスリッパ、ラジカセを逆さに固定しハンドル部分を利用したタオル掛けなどレディメイドなオブジェクトたち。それらをそれが置かれた生活の中から一旦切り離し、あるのかないのかさえ分からない、なんらかの意味を見いだすプロセスは、もはや雑貨と雑貨でないものの境界線を行き来すると同時に、その境界線をも曖昧なものにする問いかけに満ちている。
これらの作品は、見る人によれば決して美しく、また、実用的ですらないかもしれない。だが、普通の人々の発想の豊かさとともに、日常の中に潜む人間性の猛々しささえも想起させ、雑貨というものの多様性、多義性を感じ取るひとつのきっかけになっていることがわかる。

オープニングには世界的なインダストリアルデザイナーであるジャスパー・モリソン氏も顔を見せた。以前、何度かインタヴューをさせていただいたこともあり、友人でもある野本くんを紹介したところ、彼の作品にとても興味をもたれていた様子だった。
彼の作品を前に、つたない英語で15分ほど3人で立ち話。野本くんの出展作品を自身のiPhoneで熱心に撮影している姿が印象に残った。

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決して単一の言葉や意味でくくることのできない「雑貨」の世界。
今一度自分の身の回りにあり、暮らしを彩る雑貨という名の日用品を考える良い機会になるだろう。

そんな雑貨展の関連プログラムとして、僕も参加している「何に着目すべきか?」のトークイベントが4月28日(木)18時から22時の4時間、雑貨展の会場で行われます。本記事の冒頭のジョルジュ・ペレックの言葉に導かれ、「私たちの雑貨」を考察するトークイベントです。ぜひお越しいただけましたら幸いです。

「雑貨展」関連プログラム
「何に着目すべきか?」
出演:橋詰宗(グラフィックデザイナー、本展企画チーム)、古賀稔章(編集者)、木村将稔(グラフィックデザイナー)、加藤孝司(デザインジャーナリスト)+スペシャルゲスト。
日時:2016年4月28日(木)
時間:18時〜22時
会場:21_21 DESIGN SIGHT
http://www.2121designsight.jp/program/zakka/events/160428.html

「雑貨展」
会期:2016年2月26日(金)~6月5日(日)
開館時間:10:00〜19:00
休館日:火曜日(5月3日は開館)
会場:21_21 DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン・ガーデン内)
東京都港区赤坂 9-7-6

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Authors

加藤 孝司加藤 孝司
水島 七恵水島 七恵
野本 哲平野本 哲平