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Diary

巡り合わせに感謝する春。

2016年03月25日 

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唐突に私的なお話で恐縮ですが、
幼い頃、重度のアトピー性皮膚炎を煩っていた私は、学校にはなんとか通っていたものの
ある一定期間、人と視線を交わすことをとにかく避けて過ごすようになっていました。

風に当たるだけで染みてしまうほど真っ赤にただれた自分の顔を、強く恥じていたのだと思います。

10代という、自意識が過剰になる時期に、それはとにかく辛い毎日で、
今、もしもあの当時の自分をもう一度経験しろと言われたら、
絶対に乗り越えられないと、断言してしまうほどです。

でもなぜ、当時を乗り越えることができたのか?
寄る辺のない心の先端は、いつしか本屋という場所に辿り着きました。
人ではなく本と視線を交わすことで、私は自分を解放することができたのかもしれません。
音楽とファッション、そして漫画。10代らしく主にこの3つの文化のなかに身を浸すことで、
私はなんとか自分の心のバランスを取っていました。

週末になると本屋に駆け込む日々。気がつけば3時間経っていたなんてことは日常茶飯事でしたが
今振り返ればきっと、学校ではできなかった人と目を見て会話するということを、
私は本としていたのだなあと思います。

そんな私が10代の頃、最も会話を重ねた漫画があります。
時間を見つけては駆け込んだ本屋の漫画コーナーでふいに見かけた1巻の表紙。
後ろ姿で性別のわからない一人の人間が、砂漠のど真ん中で立っている。
その表紙を見かけた瞬間、得体の知れない高揚感を憶えたことを今でも憶えています。

物語は文明が滅んだ20世紀末。それから300年経った日本を舞台に、
暴君が支配するこの国で、闘う宿命を背負った少女の愛と冒険記でした。

学生という、現実社会での自分の役割に、病気のこともあって応えきれていなかった私は、
この漫画の冒険の世界に浸かることでどこか現実から逃避するような気持ちもあったと思います。

ところがその漫画は、そんな自分の期待を裏切るかのように、逃避できるどころか
とても切実な現実世界のことを差しているように感じるようになりました。
なぜならたとえ舞台は非現実的で何より漫画という架空の世界であっても、
そこに登場する人々は、現実社会で直面する喜び、哀しみ、痛み、
そのすべてを体現していたからです。

以来、私は私の生きる世界にも希望はあるのではないかと思えてきました。
そして何か落ち込んだりする度に、この漫画を読み返し胸に留めるようになりました。
そうやって10代を乗り越えて、20代となって親元を離れて社会人として編集者になった後も、
この漫画だけは自分のそばにつねに置いておきました。
まさに、私の一部になっていったのです。

 

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先日、いつも仕事でお世話になっている媒体から連絡があり、
その内容を聞いて一瞬、時間が止まりました。
なんと、その漫画の作者さんとある方の対談を敢行するので、
その取材と記事を書いて欲しいという依頼だったのです。
こんなご縁に恵まれるなんて! 胸が高鳴りました。

と、ここで一呼吸。

「あなたが大好きです」という自意識は、
ときに自分を大いに見失わせることを痛感している私は、
私的な感情を心の真ん中ではなく、すぐさま心の隅に置きました。

こんなことをはっきり言えるのも、
過去にまさに自意識が原因で(自分のなかで)大きな失敗をしているからです。
そのときも敬愛して止まない表現者2人の対談でした。

以来、二度とその失敗はしまいと心に決めてからというもの、
自意識の取り扱いについては要注意しています。
今回もまた、ちゃんと取り扱うことができたと….思います。
あとは原稿です。ここが勝負。

編集者、ライターになって14年を迎える春。
10代の私を支えてくれた漫画の作者と、仕事で対面するという巡り合わせに感謝する春。
人の縁という神秘を思いました。

みなさんはどんな縁をこの春感じていますか?

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Authors

加藤 孝司加藤 孝司
水島 七恵水島 七恵
野本 哲平野本 哲平