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丸亀で100脚目の椅子。

2015年08月05日 

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丸亀市猪熊弦一郎現代美術館でマルティーノ・ガンパーの日本での初の大規模個展となる「100日で100脚の椅子」が開催中だ(2015年9月23日まで)。
マルティーノ・ガンパーは1971年にイタリアはメラーノに生まれたアーティスティックな活動も展開するデザイナー。
「100日で100脚の椅子」は、2007年にロンドンで始まったプロジェクト。拾ったり、友人から譲ってもらうなどして自身が収集してきた椅子を元に、1日1脚、100日で100脚の椅子を作るという、時間と素材に自ら制約をかけて作り上げたオブジェのような椅子だ。
今回の丸亀展はガンパーの転機ともなったエキシビジョンを体験するまたとない機会となる。

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タイトルにある通り、このプロジェクトでは1日という制限の中で1脚の椅子、計100脚の椅子を作っていく。
椅子が好きで集めていたというガンパーのその収集方法もユニークだ。単に買うのではなく、ロンドンの街を車で流しては、路上に捨てられている椅子を、これいいね!という感じで拾い集めていったという。

2007年にロンドンで行なわれた初のエキシビションの際に発表された椅子は、一部はコレクターに買われていったが、その後、デュッセルドルフ、ミラノ、サンフランシスコ、フィルミニ、アテネと世界を巡回。そのたびごとに現地で椅子が製作された。100脚目となる1脚の椅子は、一日で1脚という取り決めのもとエキシビジョン開催地で新たに製作するというルール。

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「考えること、作ること」。その二つが合わさることがガンパーの「100脚の椅子」の方法論このシリーズに関しては限りなくアーティストに近いアプローチで作品を作ってはいるが、ガンパー自身は出来上がったものはデザインものと捉えている。

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デザイナーであるガンパーは、1脚のパーフェクトな椅子を作るということには強い思いはなかったという。それよりも、「考えること」と「つくること」、その二つに大きな興味があった。

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その創作プロセスは、見つけてきた椅子を、ひとつひとつのパーツに「分解する」ことから始まる。そうすることで、それぞれのパーツが椅子を構成する上で、どのような役割をもっているのかを理解する手がかりを得る。そこでは椅子というもの構造とともに、それをデザインしたであろうデザイナーや作り手の意図を探る。これは椅子をつくるにあたり、そのものを分解しその構造からさかのぼって考える、ガンパーオリジナルのものつくるプロセス、「反転するエンジニアリング」ともいえる手法だ。
分解している途中で椅子のクリーニングもしっかりする。そうして手で触っていると、その椅子を使用していたユーザーが、それをどのように使用したのか、その使いかたの痕跡もみえてくる。「えらぶ」プロセスにおける、その痕跡を知ることも椅子をつくる上においてガンパーにとっては大切なことなのだ。

その次のステップである、ペンチや電動ドリルなどの道具を使い、手を動かして「つくる」プロセスは、解体した椅子のパーツをどのように組み合わせるか、「立体でスケッチ」を描いていく段階。
紙に描くスケッチ、あるいはドローイングをするように、実際に手を動かし、一脚の椅子のアイデアをまとめていく。

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それぞれの椅子にはガンパーによりあらかじめ名前が与えられている。例えばこのプロジェクトを一冊にまとめた「100 chaires in 100 Days and its 100 way」の表紙にもなっているこの有名な椅子の名前は、「バックサイド」というように。また作品クレジットには製作日も記載されている。

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会場となった丸亀市猪熊弦一郎現代美術館は建築家谷口吉生の設計。

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こちらがガンパーが丸亀で作った100脚目の椅子「◯亀」。
このプロジェクトの素材となった椅子は、ほとんどが街で偶然見つけたものだが、丸亀の椅子は美術館がガンパーの意図のもと事前に用意したもの。メタルワイヤーと木の2つの椅子をつなぎ合わせた作品。
丸亀で集められた複数の椅子をガンパー自ら解体し、即興的に組み合わせてつくられた。白いワイヤー部分が座面で、ハイチェア、ローチェアの2WAYで使用できるアイデア。椅子はよく見ると輪が「◯」、白いワイヤー部分が「亀」の甲羅のようにも見える。タイトルは後付けらしいが、ガンパーらしいユーモアと、その土地のコンテクストを感じさせる実にウィットに富んだ椅子だと思う。

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「100 chaires in 100 Days and its 100 way」は、これらの椅子を一冊にまとめたカタログのタイトル。ガンパーの盟友アバケとともにつくられた出版社「Dent-De-Leone」から発行されたこの冊子はこれまで3刷を数え、そのたびごとにサイズが縮小され発行されている。丸亀での100脚目の椅子の製作プロセスも収録した「100日で 100脚の椅子 100通りの方法で」も発行された。こちらも注目したい。

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今回、展示会場エントランスホールでは、ガンパーがデザインしたフラワーベース「Vasum」(2008-2015)も見ることができる。上の写真のもともとはスクエアなフォルムであったであろうベースは、コーナーにミラーのようなものを仕込まれた、個性的なフォルムに改変された。ほかにもガラス素材でつくられたもの、ろくろでつくられたような陶磁器のようなものもある。誰もがみたことのある既存のかたちに操作を加えることで、まったく新しいアイデアをもったフラワーベースになった。

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オリジナルの椅子の形状が分かるものもあるが、それをまったく想定ができない椅子もある。だが、そのどれもが座ってください、と誘惑している。奇妙なフォルムだが、座るという椅子そのものの根源に迫る、リアリティをもっている「椅子たち」だ。

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マルティーニ・ガンパー、100日で100脚目の椅子は、現在、丸亀市猪熊弦一郎美術館で開催中だ。

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別フロアでは愛猫家たちのためのメディア、「ilove.cat」が協力するこの館の「主」、猪熊弦一郎が描く「猫」の絵をまとめたエキシビション「猫達」も開催中。猪熊もものを興味深く眺め、さまざまなものを収集し、たくさんのものの中から自らのものさしでものを選び、それを自由なアイデアでインテリジェンスあふれるものに魔法のように変える名人だった。
こちらもあわせてご覧いただきたい。

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「マルティーノ・ガンパー 100日で100脚の椅子」
@丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

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Authors

加藤 孝司加藤 孝司
水島 七恵水島 七恵
野本 哲平野本 哲平