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Diary

感覚をゆさぶる映像体験

2015年03月05日 

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毎年、恵比寿の東京都写真美術館を舞台に開催される大規模な映像祭「恵比寿映像祭」が今年も開催中。全面改修中の東京都写真美術館に変わって、今年は隣接するザ・ガーデンホールをメイン会場に、今週の日曜日まで行なわれている。
とにかく、これだけの規模で行なわれていながら、ほとんどの作品の鑑賞が無料(上映、ライブ、レクチャーなど、定員制のものは一部有料)というのが素晴らしい。いつもの現代美術展であれば途中で離れてしまうこともある映像作品も、このときばかりは時間をかけてゆっくり鑑賞してみたくなる。その理由は何も無料であるばかりではない。とにかくこの映像祭に展示される作品は、毎回社会性、エンターテイメント性、アート性といった 趣向を凝らした、バラエティ豊かな時代性を反映させた魅力的な映像作品が世界各国から集まり、話題に事欠くことがない。

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人類史上においてコンピューターの登場は、せいぜい数十年ほどのものだが、その可能性は黎明期の今から考えれば極めて素朴なものから、現代における身体や物質を代替する可能性をもったものまで、さまざまなジャンルで欠かせないものになっている。現代アートの表現においてもコンピューターによるデジタル表現は一ジャンルを築きつつある。映像作品においても、フィクション、ノンフィクション、ドキュメンタリーの枠を超えて、デジタルは表現を飛躍的に革新的なものにするツールとして機能している。ときに身体と意識を大幅に拡張し、まったく新しい感覚をもたらしてくれる。本展でもヴァーチャル3D映像フォーマットを用いた作品が展示され、アートとしての映像表現の新しい可能性を示すとともに、まったく新しい体験をもたらすものとなっている。

写真 1

デジタルコンピュータ時代を象徴するアップルの創業者、若きスティーブ・ジョブが影響を受けたことでも知られるペーパーバック「Whole Earth Catalog」(1968年創刊)は、デジタルとは真逆なアナログに根ざした、人が生きるために必要な、人間くささをもった素朴だが実践的で普遍的な価値をもった道具を全誌面にわたり網羅したカタログ。その表紙には当時NASAが公開した、人類がはじめて宇宙から見た地球の姿が毎号異なる構図で写し出される。この地球上のあらゆるツールを掲載したカタログでは、そのすべてが通信販売で購入が可能。当時としては画期的なことだった。そんなカタログという体裁とあいまって、現代のウェブブラザGoogleと比べられることもある先見性をもっていた。そこでめざされた”意識の拡張”は、デジタル全盛の現代において、よりリアリティをもって実践されつつある。またその意識の拡張はデジタルツールによって、より究極的な意義と目的を47年前に創刊された「Whole Earth Catalog」とシェアしている。

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暗闇の中で映像を注視する鑑賞者たち。人間は「Whole Earth Catalog」が創刊された50年前と今とで、どれだけ変化したのだろうか。

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恵比寿映像祭では作品は館を飛び出して、さらにサイトスペシフィックに屋外でも展示上映される。映像表現はハードウェアが進化することで、よりその可能性と楽しみかたがひろがった。光が溢れる屋外でも映像を鮮明にみることができるようになったのも、そのひとつだろう。通りを行き交う人々と映像の中の俳優たち。エリア各所に設置されたゲリラ的なオフサイト展示として、これまで作品の舞台となった横浜などで上映され、鮮やかなイメージを鑑賞者の心に刻み付けた、映画作家・瀬田なつきの「5 windows」恵比寿特別編が上映され、道行く人の足をとめ注目を集めていた。

写真1

メイン会場には映画製作者であるマイケル・シャンバーグとレインダンス・コーポレーションによって1971年に出版された「ゲリラ・テレビジョン」の邦訳本も展示されていた。ゲリラ・テレビジョンはテレビなどの映像メディアの大衆化やコマーシャリズムに対するオルタナティブとしての、ビデオがもたらす映像の”民主化”の可能性をテーマにしたクリティカルな映像論。それまで映像メディアにはフィルムというフォーマットしかなかった。60年代半ばに市販化されたヴィデオレコーダーは、50年代のハンディフィルムカメラの登場よりさらに、より身近にアートの表現に用いられるようになる。

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「ゲリラ・テレビジョン」の前衛的ヴィデオ・メディアのコンセプトに呼応するかたちで誕生した日本の前衛芸術グループ「ビデオひろば」のメンバー、中谷芙二子、和田守弘、かわなかのぶひろらの映像作品は旧式の9インチブラウン管テレビでの上映。アレブレの表現が流行し、ラディカル全盛の70年代初頭の映像は、コミュニケーションの問題を扱いながら、デジタル、メディアアートがもつ可能性をソフト、ハードの両面から探求しており、今見ても刺激に満ちたものであった。

写真 2

日仏会館ホールで上映されている写真家ホンマタカシ氏の映像作品「最後にカケスがやってくる」も、ハードウェアとしてのカメラの進化とともに可能になった映像表現のひとつだろう。写真家にとってデジタル一眼レフカメラでハイクオリティな映像を撮影することができるようになったことは、よりその表現の可能性を拡張させた。現在ではデジタル一眼レフカメラで劇映画が撮影されることも少なくなく、ジャン=リュック・ゴダールの最新作も2台のキヤノンのデジタル一眼レフカメラにM型ライカのレンズを用い3D映画が撮影されているという。

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時代も国境も横断的な作品が一堂に会した恵比寿映像祭。会期中にもう一度足を運び堪能したいと思っている。

第7回恵比寿映像祭「惑星で会いましょう」
会期:開催中〜2015年3月8日(日)会期中無休
会場:ザ・ガーデンホール、ザ・ガーデンルーム、日仏会館ホール・ギャラリー、恵比寿ガーデンプレイス センター広場、恵比寿地域文化施設及びギャラリー、ほか
10:00~20:00 (最終日は18:00まで)
入場無料 (上映、ライブ、レクチャーなど、定員制のものは一部有料)
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Authors

加藤 孝司加藤 孝司
水島 七恵水島 七恵
野本 哲平野本 哲平