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Diary

あらためて早起きは三文の徳を知る

2014年08月20日 

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僕が生まれた東京都台東区は数年前から、さまざまな意味で大きく変わりつつある。東京の下町らしい、粋やいなせといった、昔ながらの下町風情を観光産業に結びつけ、街全体をある種のアミューズメントパーク、テーマパーク化した観光地としてのカラーを強力に押し出している。それは狭い敷地に、ジェットコースターや、お化け屋敷、観覧車などのアトラクションを盛り込んだ遊園地「花やしき」のようだ。
もう一方で、上野の山に建つ、フランスの建築家ル・コルビュジエ設計の国立西洋美術館の世界遺産登録への動きもそうだろうし、浅草寺界隈の商店街や奥浅草、裏浅草といわれる辺りの再開発もその一環だろう。
そんな観光都市としての行政による強化とは裏腹に、より地域や暮らしに根ざした、人のなりわい、身の丈に近い商いを、新たにこの地で、という若いクリエイターたちによる、これまでにない新しい流れも生まれてきた。

僕が生まれ育ち暮らしているこの町にも、最近は地元出身者ばかりでなく、自分のペースで日々を営むことができ、ものづくりの伝統がしっかり根付いたこの地に可能性を感じてくれる、才能と熱意をもった人びとが集まりはじめた。テーマは、手仕事、余白、デザイン、ライフスタイル。
丁寧な手仕事とは、なにも「物」を作ることばかりではない。日々の暮らしを根底からささえるには不可欠な、食の面においても、いいお店が増えてきた。そんなあたらしいスタイルの食文化が生まれ、この町に暮らす楽しみが増した、というこのエリアの居住者も多いのではないだろうか。

僕が住んでいる浅草から、自転車で約15分の谷中・千駄木・根津・本郷という、台東区と文京区をまたぐエリアにも、そんなお店や、暮らしや食を楽しむことの出来るお店が増え、今やその流れも定着してきて、また別のフェーズにむかっている感もある。
そのなかでもここ数年来、僕の変わらぬお気に入りは、台東区と文京区の区界にもなっているへび道にあるベーグル店「旅ベーグル」だ。
旅ベーグルがお店を構える「へび道」の名前の由来は、へびの体のように蛇行した細い道から来ているというのが通説だ。都内にはこのように細く蛇行する裏道は現在でも数多く残っているから、その町まちにある道の由来を調べてみるのも楽しいと思う。

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谷中へび道は、大正時代にまで時代をさかのぼれば、人が往来する通りではなく、藍染川という細い川が流れていたという。その名を残す藍染通りという名前をもった根津神社に続く商店街が今も近くに残ることは、意外に地元の人でも知らないことである。
大正よりさらに時代をさかのぼれば、谷中という上野と本郷の二つの山の谷に位置し、辺りは寂しく、けものしかいないようないくつもの小川が流れていたであろう、人の営みとともに発展してきたこの町の由来もみえてくる。
焼きたてのベーグルを朝食で食べて欲しいという思いから、まだほの暗い午前3時半から仕込みをはじめ、朝の7時には開店という、ひと昔まえならどの町にも一軒は当たり前にあった町のパン屋さんのような「旅ベーグル」。

夜明けとともに働きはじめ、日暮れのおとずれとともに家路につく、そんな当たり前で実直生き方がこの町らしいライフスタイルでかっこいい。
現代のエグゼクティブたちは、午前3時、午前4時に起床するだとか、そんなニュースを時たまネットでみることがある。かのアップルのCEO、ティム・クックさんは4時半、ナイキCEOのマーク・G・パーカーさんは午前5時に起床、スターバックスのCEO、ハワード・シュルツさんは朝6時にはすでに会社に出社しているという。彼らと比較することも出来ないことを承知で言うが、かくいう僕も、最近生活を共にし始めた愛猫ジャスパーの早い過ぎる朝食をねだる猫パンチとともに、4時半に起きてこのテキストを書いている。

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ライフスタイルにおいて夜も朝もない、二十四時間という考え方が定着した現代において、そんな1日のタイムサイクルもなんとも気持ちの良い暮らしではないだろうか。

もちろん、そんな朝早くから仕込まれ、丁寧に作られる旅ベーグルのベーグルは、素材からして健康に配慮がなされ、ナチュラルでいながら食事としても腹持ちのよい、食事としても食べ応えのあるものだ。

ベーグルの種類も小麦の風味がほんのり香るプレーン、南カリフォルニア産のレーズンをたっぷり使用したというレーズン、個人的には一番のお気に入りのスパイシーなテイストが口いっぱいに広がるデュカなどを定番に、日替わりのお楽しみや、あんこ入りやドライフルーツ入りなど、風味豊かなベーグルを、あせらず気負わず毎朝丁寧に焼き上げているさま、その働きぶりがいい。

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旅ベーグルを営む松村くんとは、下町の仲間と結成した台東フォーククラフト協会の仲間である、谷中のクラシコの高橋さんに紹介してもらった縁から親しくなり、それ以来よいお付き合いをさせていただいている。

ここ最近では、店内壁面を使った「A WALL STORE」という、彼がアメリカ・カリフォルニアを中心に、旅して集めた日用品を販売する小さなショップ・イン・ショップもオープンさせた。そこには夢のカリフォルニア州の形をしたカッティングボード「Very California Cutting Board」や、クリスティーナさんがつくるティータオルなどが販売される。クリスティーナさんというのは、彼が旅したアメリカはサンフランシスコで出会った作家さん。その彼女のプロダクトであるティータオルは、彼女の自宅アトリエでつくられるシルクスクリーンでプリントが施された、手触りのいいタオルである。そんなDIY精神にあふれた、他ではあまり売っていない今のアメリカの匂いがするプロダクトを買うことができるのも、旅ベーグルの新しい楽しみになっていて、僕は嬉しく思っている。

毎朝、早起きをして、この町を見守るようにして商いをしていてくれている人がいると思うだけで安心できる。そんな風に思うのは僕だけではないはずだ。僕も彼らのように、谷中、千駄木、蔵前、日本橋、浅草、この町の暮らしに貢献することができればといつも思っている。

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Authors

加藤 孝司加藤 孝司
水島 七恵水島 七恵
野本 哲平野本 哲平