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Diary

人の営みに寄り添う動植物

2014年06月12日 

2013年12月、事務所の扉を開けると、イラストレーターの黒田潔さんが黙々と絵を描いている。指先の一点に全神経を集中させているようだった。聞けば15階立ての建物が3棟ある朝霞浜崎団地(埼玉県朝霧市)の壁面に、200カ所以上、動植物を描いているという。築38年経つ古い朝霞浜崎団地は、UR都市機構が推進する団地の再生計画を行っていた。

この再生計画のトータルデザイン・ディレクションを務めていたのが、<ステュディオ ハン デザイン>の韓亜由美さん。黒田さんは韓さんの依頼のもと、自身の仕事としても初の住居空間に絵を描くことに挑んでいたのだ。

掲げられたデザインコンセプトは、「団地は森」。森は、黒田さんが日頃から好きなモチーフだ。その森を前提に、どんな世界観を描き出すのか。ギャラリーや美術館に展示される作品を描くのではない。あくまで住環境の一部に取り込まれる絵を描くということ。作品という役割を持たない絵。黒田さんがそれをどう捉えるのか。その姿勢がきっと描く絵に映し出されるはず。その完成に期待を寄せた。

シャフト部9

年が明けて2014年2月中旬。「完成しました」と黒田さんから案内をもらい、その全貌を知る。それは想像を遥かに超えるスケール感だった。住棟の中心部にそびえ立つ大樹。その樹の周辺にはリスやウサギ、鹿が生息し、見上げれば鳥が羽ばたいている。動植物は、各階のエレベーターホールや共用廊下にも生息している。黒田さんは、建物自体を1本の木に見立てていた。1階は植物の根っこを描き、低層階には蝶を、高層階には鳥を、という具合に、生息している高さによって描く場所を変えていた。

遊具室4

6F共有廊下4

建物全体を見るともなく見る。それまで無機質に感じられた空間にあたたかな日差しが差し込んでいく。団地全体が有機的なつながりをから成る、まるでひとつの共同体のように思えた。

10Fエントランス3

そう、団地には、窓の数だけ人の営みがある。その営みのなかで毎日巻き起こる、様々な喜怒哀楽。黒田さんが描いた動植物たちは、その喜怒哀楽にそっと寄り添っている。絵というひとつの表現が、人にもたらす効果。その可能性を、朝霞浜崎団地を通して改めて考えさせられた。

黒田潔
http://www.kiyoshikuroda.jp/

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加藤 孝司加藤 孝司
水島 七恵水島 七恵
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